ふく動物病院

診療科目

猫の歯肉口内炎

世の中には口内炎で苦しむ猫が数多くいます。
その口内炎は私たちが体験したことがあるような短期間で治癒する口内炎ではありません。
炎症の範囲や程度がひどく強い痛みを伴い、ほとんどの場合、生涯付き合っていく慢性疾患です。
その発生頻度は100頭につき6~7頭と報告され、猫の慢性の口内炎は別名「難治性口内炎」とも呼ばれています。



猫の歯肉口内炎では重度になると鼻側粘膜や舌下粘膜や頬粘膜に激しい炎症像が認められます。
口内炎1.JPG
「初診時 猫 口腔内画像 口峡部の炎症が認められる」
口内炎2.JPG
「初診時 猫 口腔内画像 局所拡大画像」

「病因」
①過剰免疫
②免疫低下
③栄養学的な問題
④アレルギー
⑤ウイルス
⑥細菌の感染
などが病因であるとされています。
多因子性の病気であり、原因が複数であることも珍しくありません。

「治療」
猫の歯肉口内炎は通常内科治療にある程度よく反応するものの、徐々に治療に対する反応が鈍くなっていきます。
そして放置すれば、口内炎による痛みから摂食困難に陥り、脱水、衰弱、時に死亡することさえあります。

治療の柱は、主に対症療法で症状の緩和を狙う内科治療と、根本治療ともなり得る歯科治療(外科を含む)です。

「内科治療」
通常治療では基本的に完治しない病気であるため、治療は長期間に及び、費用対効果も考えた上で比較的安価な抗生剤やステロイド剤が使われることが多いです。
しかしながら、特にステロイド剤の長期使用は、徐々に治療効果が落ち、健常な口腔環境の維持が難しくなります。
最終的には初期よりも悪化し、肝臓に負荷をかけ、ホルモン異常や皮膚病や糖尿病などの二次的な疾病を発症させるリスクがあります。
他には食事中の栄養素の不足やアレルギーが関与しており、治療としてのアレルゲン除去食や環境の変更などが口内炎の症状軽減につながることがあります。

「歯科治療」
細菌の巣である歯石の除去を中心に行います。
歯石は細菌の安定供給源であり、また歯肉を直接的に刺激し、口腔内に強い炎症を起こします。
口腔内細菌が増殖すると、様々な起炎物質を産生し、炎症をさらに悪化させます。
口腔内の細菌は90%以上が歯石と歯の表面に存在します。
ですので歯石の除去は難治性口内炎の治療として有効です。

「全臼歯抜歯」
その処置だけでは軽快しない症例においては、「全臼歯抜歯」や「全顎抜歯」が口腔内の細菌を少なくコントロールし、炎症を起こしにくくする治療法として確立されています。

全臼歯抜歯の治療効果が60〜70%と報告され、全顎抜歯の場合で70〜80%の治療効果と報告されております。
治療反応の期間は、通常3ヶ月〜数年かけて改善し、約8~9割の症例で症状が軽減すると報告されております。
ただしエイズや白血病に感染している場合はその病気により免疫不全が起こり治療効果の維持が上手くいかないことがありますので注意が必要です。

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「術中所見 臼歯抜歯後」
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<施術後 口腔内の炎症が著しく改善している>

人でも小さな口内炎が1つあるだけでも痛みで食事が楽しくなくなります。
口の全域に及ぶような口内炎は極力緩和してあげたいと考えています。

副院長 清田大介

2022/01/01