ふく動物病院

診療科目

犬の僧帽弁閉鎖不全症 (myxomatous mitral valve disease)

犬の心臓は主に4つの部屋(左心房・左心室・右心房・右心室)から形成され、そのうち左心房と左心室を隔てる扉を「僧帽弁」と呼びます。

僧帽弁閉鎖不全症(僧房弁粘液腫様変性)は、犬で最も一般的な心疾患とされ、咳、呼吸困難、失神、肺水腫と言った深刻な状態になることもある為、まずその病態把握が重要と考えられます。


<好発犬種>
キャバリア、チワワ、ダックス、ポメラニアンなど、多くの小型犬で認められます。

<心エコー図検査>
MR左房拡大.png
(顕著な左心房の拡大)

<X線検査>
MRX線VD.png
(顕著な心陰影の拡大)

ふく動物病院 ACVIM Stage分類表.png
ふく動物病院 ACVIM Stage分類表.pdf
「ACVIMガイドライン」
犬の僧帽弁閉鎖不全の場合にACVIMステージA、B1に対する治療は推奨されておりません。
LA:AO犬.jpg
「犬のステージB2を特定する基準の一つ、大動脈弁レベルでの左心房/大動脈の比」(右側短軸像)
LA/AO:1.6以上でStageB2以上と判断される

B2以降は臨床症状に応じた内服薬の服用となると思われます。
近年では外科治療も選択肢となりましたので、治療方針を相談した上で決定することとなります。

本論文では、昨今の動物病院で実施されている心エコー図検査に基づく粘液腫性僧帽弁疾患 (僧帽弁閉鎖不全症:MMVD) の重症度スコアについて記されております。

2021年に発表された論文であり、 犬のMMVDの犬560頭についてまとめられた、獣医医療では間違いなく「large-scale sutdy」と言える論文でしょう。

回顧的、多施設研究であり、僧帽弁機能不全心エコー(MINE)スコアは、4つの心エコー図の測定方法で測定されます。LA/AO比(左心房対大動脈比)体重で正規化された左心室拡張末期直径、短縮率(FS)、および E波伝達ピーク速度に基づいていました。 具体的な心エコー検査のカットオフ値は、MMVDに関する以前の予後研究に基づいて定義されます。

重症度スコアは以下のように割り当てられました。

本論文では生存期間の中央値は提案された重症度クラス間で有意差があったとされ(P < .05)

軽度 (スコア: 4-5):MST2344日、95%信頼区間[CI] 1877-2810日)

中等度 (スコア: 6-7):MST1882日、95%CI 1341-2434日)

重度 (スコア: 8-12):MST623日、95% CI 432~710日)

末期(スコア:13-14):MST157日、95% CI 53~257日)

MINEスコアで8以上は心臓死を予測しました (曲線下面積 = 0.85; P < .0001; 感度 87%、特異度 73%)。 多変量解析では、MINEスコアの心エコー検査変数はすべて、心臓病による死亡の独立した予測因子でした (P < .001)。

本論文ではMINEスコアは、MMVDの重症度を心エコー検査で分類した簡便な新しいもので、生存率、予後と関連しているため臨床的に有効であること報告しております。

<Reference>
Bruce W. Keene Clarke E. Atkins John D. Bonagura Philip R. Fox Jens Häggström Virginia Luis Fuentes Mark A. Oyama John E. Rush Rebecca Stepien Masami Uechi ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs

The Mitral INsufficiency Echocardiographic score: A severity classification of myxomatous mitral valve disease in dogs

2023/11/01