ふく動物病院

診療科目

前立腺肥大・前立腺嚢胞について(副腎腫瘍の併発疾患)

雄のフェレットは副腎腺腫や副腎腫瘍の影響により、前立腺肥大、前立腺嚢胞を併発し、しばしば問題となります。



3歳を過ぎたフェレットを診察する場合、排尿異常ががないか、ペニスより膿が排出されていないか、注意深く診ていく必要があります。同時に触診やエコー検査により前立腺の拡大や副腎の拡大をチェックしていきます。当然雌には前立腺はありませんので、尿が出なくなる事はありませんが、雄の場合は前立腺の拡大によって尿がでなくなり、急性腎不全になってしまう事もあります。
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「腹部超音波検査による前立腺嚢胞の診断」

膀胱の尾側に低エコー領域が認められ、排尿異常が認められます。
副腎疾患に罹患した「雄」のフェレットは前立腺肥大・前立腺嚢胞による排尿異常が臨床上問題になることが多く注意が必要です。

(症例1)5歳齢、雄のフェレット副腎由来、前立腺嚢胞
近医にて膀胱炎と診断をうけたものの、尿が出ず、当院にて副腎由来の前立腺のう胞と診断されたケース。

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背部には副腎ホルモンの過剰により両側性の脱毛がみとめられます。
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拡大した左副腎

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手前が膀胱です前立腺にはほとんど収縮力がありませんので、尿がどんどん前立腺に貯留してしまいます。
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縫縮した前立腺です。切除する事も可能ですが、尿が腹腔内に漏れる事もありますので、今回は縫縮術を行いました。

(症例2)5歳齢、雄、副腎由来の前立腺膿瘍
半年前から排尿の異常を感じていた、5歳の雄のフェレットの症例です
3日前より尿の出が悪いという事で来院されました。
レントゲン、血液検査にて明らかな異常が見られませんでした。
尿検査にて潜血反応があり、尿沈査に感染を示唆する白血球が多数見られました。

年齢が5歳と高齢ではありますが、全身状態が良く、数日後に食欲も低下してきた為、
試験開腹後、副腎の切除と前立腺のチェック、処置を行いました。

左副腎です。
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副腎を周りの脂肪と剥離していきます。
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取り出した左副腎です。ほとんど出血無く取り出す事ができます。
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取り出した写真です。
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前立腺もチェックします。
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文献によると2cm以上でなければ前立腺腫瘤の外科的摘出は行わないとなっている。

穿刺にて前立腺の膿瘍を抜き細菌感受性試験を行います。
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この症例は5歳と高齢である事、半年前から排尿に違和感を感じていた事などから、
術後の経過が心配されました。

術後の経過は良好で手術後3日から、ほとんど自力で食餌をとれるようになり、排尿も良好です。
摘出した左副腎の病理結果は副腎腺癌でした。術後も排尿は良好で、食欲もあり、全身状態もいいようです。
今後は右副腎の腫瘍化に伴う前立腺肥大の再発に注意していくことになります。

(症例3)4歳齢、雄、排尿障害(副腎由来の前立腺膿瘍)
雄のフェレットの尿路変更術(前立腺疾患に対する救済的治療)
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「黄色丸:新尿道孔」
雄のフェレットの尿道は極めて細く日常的にフェレットを診察している動物病院病院でなければ尿道カテーテルを入れることすら困難と思われます。

このような症例に対しては「会陰尿道路術」(新尿道孔形成術)が適用となります。
通常、拡大した前立腺が対症療法により退縮することは困難であり、前立腺膿瘍の場合には尿内に細菌や膀胱内の粘膜や尿道組織などの組織により「尿栓」が形成されてしまいます。
この「尿栓」は雄のフェレットの尿道閉塞の主な原因となります。
副腎摘出術よりも麻酔時間が短く、高齢の雄フェレットの排尿障害に対する有効な救済的術式と考えております。

「フェレット の前立腺疾患の内科的治療」
獣医医療では歴史的に、フェレットの前立腺疾患に対しリュープリンの注射が長らく使用されてきました。

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「リュープリンの注射」

内科的な治療として、3週間から4週間間隔でのリュープリンの接種により前立腺の縮小効果が認められる症例もあります。
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「リュープリンの定期接種後のフェレットの前立腺」

この内科治療により、一定の症例では、前立腺の縮小と臨床症状の改善が認められます。
飼い主様にとっては外科治療よりもリスクの少ない内科治療を希望されるのは当然のことと思います。

2020/12/15